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かつて、彼には名前がなかった。
識別番号「B-06」。それが与えられたすべてだった。
政府直轄の実験施設において、ノイズ耐性試験“CHiME”の被検体として生まれ、育った少年。
彼の身体には、日々異なる“音”が注入された。それは、ただの音ではなかった。
毒であり、呪いであり、世界の亀裂そのものだった。
牙を向いたら、殺されることを知っていた。
彼は唯一、「笑った」。
ある日、研究者のひとりがこう言った。
「B-06......こいつ、バリバリノイズ食って笑ってるし、番号で呼ぶのも面倒だ。バリノって呼ぶか」。
その瞬間、彼の中で何かが壊れ、何かが芽吹いた。
彼の絶叫とともに、周囲の建物は音を纏って崩壊し、人々は耳から血を流して倒れた。
あの日のバリノが、セントラル・サージの“震源”だったという噂は、いまだ公にはされていない。
彼の中にあるノイズは今も“鳴って”いる。ただし、本人は気づいていない。
彼が常軌を逸した明るさで笑うとき、脳内では絶えず音の地獄が鳴り響いている。
バリノは、もはや人ではない。ノイズを注がれたことで音と融合した、音そのもの――
ある者達は、彼のことを「ノイズの神」と呼んでいる。
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